昨年から今年にかけて日本建築界を牽引してきた偉大な建築家たちが立て続けにこの世を去った。槇文彦、谷口吉生、原広司。2009年、一時帰国した際に槇総合計画事務所で働く機会を得て2ヶ月ほどインターンでお世話になった。事務所ではグランド・ゼロの4WTCやスイスバーゼルのノバルティスの計画が進んでいた。当時30歳をすぎた大学院生の私は、ゲーリー・亀本さん(現社長)のはからいで、模型室ではなく、亀本さんのデザインチームに加えていただいた。4WTCのカーテンウォールサッシの断面形状の納まりを3Dソフトで検討する作業や、ノバルティスのパース制作などに携わった。模型を囲んだ所員のみなさんの白熱した議論を拝聴したり、ランチをご一緒して、ざっくばらんに事務所のこと、建築のことなどについてお話を伺ったりする時間は、とても楽しく貴重な経験になった。そんなある日の昼休み、ヒルサイドテラスのF棟脇の広場で、一人静かに佇む槇先生の姿を見かけた。とても暑い日だった。濃紺のジャケットを羽織って、木漏れ日の中、静かにランチを楽しんでいらした。その建築家の佇まいに、思わず「かっこいいなぁ」と心から思った。ヒルサイドテラスを背景に槇先生の写真を撮りたいという衝動にかられたが、無遠慮にカメラを向けるのはためらわれて、そっとその場を去った。添えた写真は、事務所の入り口に向かうパッサージュとその傍に見える静かな中庭である。エントランスからはわからないが、建物の裏手の道に動線が続いている。毎朝、この品のある通路を通ってオフィスに行くのが嬉しかった。槇総合計画事務所が設計した建築には、建物の大小や立地とは関係なく、常にこの気品が漂っているように思う。