高階秀爾著「日本人にとって美しさとは何か?」の中に、”ヨーロッパのカーブと日本の反り”の違いについての考察がある。コンパスなどの器具を使って描かれる西洋の曲線は、定規で描かれる直線とは”別物”であるが、日本のそれは、あくまで”直線の延長”であり、本質的には同じであるという。心地よい屋根の反りやむくりは、そんな日本人の感性が作り出したカタチである。かつて宮大工は板の厚みや加える力によって美しい曲線を生み出す道具「撓み尺(たわみじゃく)」を駆使して、日本の線を作り出した。この辺りは伊藤ていじ著「日本デザイン論」に詳しい。現代の建築設計の現場では作業効率化のためにほとんどの場合CADが用いられているが、デザイン検討の過程ではスケッチや模型を用いることが多い。CADで描かれた線ではなく、手で描かれた線にはどことなく温かみがある。微妙な曲がり具合はCADで描くのは難しい。描くのが難しい線はつくるのも難しいが、魅力がある。少し歪なくらいの空間のほうが心地よいのかもしれない。